アッテル分析ブログ

経営(ヒト・モノ・カネ)に関して定量的な分析を発信する 株式会社アッテルのブログ

離職率が1%改善すると、どれだけ利益貢献するか?

HR部門のKPIとして、
離職率(退職率)」
を追っている会社も多いかなと感じます。

 

最近は特に「新卒の離職率が上がっている(=定着しない)」や「ベンチャー企業で大量に離職者が出ている!」という話を耳にする機会もしばしばあります。

 

一方で、
・「離職率」はどのくらい下げたほうがよいの?(どの程度が適正値?)
・パフォーマンスごとに「離職」の考え方は変えるべき?
などの点については、あまり定量的な議論を見たことがない気がします。(不勉強で恐縮ですが。)

 

そこで今回は、
「1人離職するとどのくらい利益が変動するのか?」
について数字の面から考察し、
離職率」を改善することで、どれだけ「利益貢献」できるのか?
という答えを導いてみたいと思います。

(計算や仮定が間違えていたら、ご指摘いただけますと幸いです。)

 

※関連記事は「退職(予測)に関するデータ分析結果(まとめ) 」よりご覧ください。

 

 

0.そもそも「離職率」の定義とは?

一言で「離職率」といっても、会社によっていろいろな定義があるようです。私が聞いたことがある離職率の定義を並べてみます。(厚生労働省でも同じ「離職率」いう言葉で、AとCそれぞれに近い2つの離職率を使用しています。)

※詳細は「離職率(退職率)の算出方法3パターンを解説 」をご参考ください。

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いろいろな離職率があると、業界平均と比較しにくいため、KPI設定が難しい部分はありますが、一旦いろいろな定義があるという前提で、議論を先に進めます。

 

※上記すべての退職率をワンクリックで自動計算してくれるサービス「アッテル(Attelu)」を提供しています。(退職率自動計算機能など無料でご利用いただけます。)

 

1.1人が退職(離職)すると、どれだけコストがかかる?

まず1人が退職すると、どれだけコストがかかるのかを計算してみます。いろいろな計算方法がありますが、年収480万円の人が退職し、退職者分の人を採用した場合の一例を示します。

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色々な仮定をおいていますが、ざっくり1人当たり年収相当のコストがかかっているといえそうです。

ダイヤモンド社記事では、入職者の教育コストの除いて、年収500万円で267万円と試算されており、上記計算では、入職者教育コストを198万円と試算しているので、267万円+198万円=475万円と考えるとほぼ同等の数値です。

※KeyPlayers高野さんの記事では、「人事採用人件費」が上記計算の約2倍で計算されています。そのため、コストはもう少し上振れて計算する必要があるかもしれません。

 

2.ローパフォーマーはどの程度企業に損失を与えるか?

退職には一定のコストが発生する一方、
「ローパフォーマー」の退職は仕方ないと考えている
というお話も耳にすることがあります。

そのため次に、「パフォーマンスの違いと利益の関係性」について計算してみます。

 

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上記のように簡単には計算できないことは理解したうえで、あくまで理論計算では
「ローパフォーマーの人は、年間480万円(年収相当)の利益損失を与えている」
”可能性がある”ことがわかりました。

※コストは福利厚生費や固定費を含めていないので、もっと高いかと思います。

 

3.「離職率が1%改善」すると、どれだけ「利益貢献」する?

次に、仮に
「100人の企業で退職率が1%改善(=年間に1人)した場合の利益貢献」
について考えてみます。

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※人件費率は業界ごとにかなり違うので、あくまで目安です。

 

非常に大雑把な結論ですが、

・退職人数が1人減ると、最大816万円の利益創出
・退職率が1%改善すると、営業利益率が最大0.5%改善

する可能性があることがわかりました。

 

4.「離職率」の適性値とは?

最後に、適正な「離職率」について考えてみます。

 

上記の計算上、「ローパフォーマー」の場合、
「ローパフォーマーが退職し、新しい人を採用した場合のコスト」

「ローパフォーマーが1年間で与える損失」
の金額が近しい可能性があることがわかりました。

 

個別には、より精緻に検討する必要がありますが、今回の過程の上では
・ローパフォーマーは1年以内にパフォーマンス改善できるか
が1つの利益における目安になりえることが、計算上は示唆されました。

逆に、
ハイパフォーマー、ミドルパフォーマーが退職すると利益率が下がる
こともわかります。

 

そのため、「適切な退職率」を「利益」の観点から考えると
適切な退職率は、(1年以内にパフォーマンスが改善しない)ローパフォーマーの割合
という可能性があると考えられます。

 

※ちなみに、ローパフォーマーが1年で退職すると「退職コスト:480万円」+「利益損失:480万円」で、合計約960万円/人(年収の2倍)の利益損失があることがわかります。
パフォーマンスを上げさせることも重要ですが、採用時点て入社後のパフォーマンスを見極める精度を高めることも重要かもしれません。

 

 

5.まとめ

今回、
ハイパフォーマーの退職率が1%改善すると、営業利益率が0.5%改善
する可能性があることを示しました。

 

仮定が多すぎるため、数字的な意味合いは弱いですが、個人的には思ったよりも改善できる利益額は大きいのかなと感じました。


また
適切な退職率は、(1年以内に改善しない)ローパフォーマーの割合
・ローパフォーマーを採用して1年で退職すると
年収の2倍相当の利益損失
という可能性がある示唆も得られました。

 

実務に携わられている皆様は、退職率についてどのようにお考えですか?「離職率改善」の取り組みを行っていらっしゃる方がいましたら、ぜひご意見をいただけますと幸いです。

 

 

※執筆者:塚本鋭

 東京大学・大学院において、複雑ネットワークや大規模シミュレーションに関する研究に従事。人工知能学会研究会優秀賞・東京大学工学系研究科長賞 等を受賞。 大学院修了後、株式会社野村総合研究所コンサルタントとして入社し、ICT・メディア領域を担当。2013年1月より株式会社クラウドワークスに8番目の社員として参画し、2014年12月に上場を経験。データ分析・産官学連携を軸としながら、B2B事業立ち上げ、カスタマーサポート部門立ち上げ、子会社副社長等を歴任。2018年より現職。