アッテル分析ブログ

経営(ヒト・モノ・カネ)に関して定量的な分析を発信する 株式会社アッテルのブログ

10人採用する場合、同時に優秀な20人を不採用にしている?

最近、HR関係の方とお話していると
「人材が採用できない」
という課題感をよく聞きます。

 

加えて、せっかく採用できたにも関わらず
「入社してもらった方のパフォーマンス(評価)が低かった」
ということも、現場の方から伺うこともしばしばあります。

※私自身、前職ではアルバイトも含めると100名近い方を採用しましたが、正直、採用した人が思うようなパフォーマンスに届かないこともありました。

 

もし「採用した人が、評価が低い(=採用すべきでなかった)」のであれば、逆に「採用しなかった人が、評価が高い(=採用すべきだった)」可能性も考えられます。

仮にその人たちが採用できていたら、「人材が採用できない」という課題の解決に一歩近くのではないでしょうか?

 

そこで今回は、
「採用しなかった人が、評価が高い(=採用すべきだった)」確率
について考察します。

(計算や仮定が間違えていたら、ご指摘いただけますと幸いです。)

 

 

0.サマリー

今回の記事のサマリーです。理論に興味がない方は、ここだけ読んでください。

  • Googleは1度不採用した1万人から150人を採用している(この1.5%の採用率は、通常の選考フローの6倍)
  • 【「不採用」を「採用」と判断する確率】と【「採用」を「不採用」と判断する確率】が同じだとすると、10人採用する場合、20人の「採用すべき人」を不採用にしている
  • いくら母集団形成を頑張っても、「採用精度」を高めないと、「採用すべき人」を「非採用」にし続けてしまう

※「採用精度」を高める方法は、今後定量的に本ブログで検証していきます。 

 

1.はじめに:そもそも「採用精度」ってどれくらい?

Google人事担当上級副社長のラズロ・ボック氏が書いた「ワーク・ルールズ!」(Work Rules)によると、Googleでは

  • 受験者を採用すべきかどうかは、4回の面接によって86%の信頼性で予測できる
  • 面接の精度は、面接者が採用したい応募者のうち実際に採用される人の割合
  • 重視するのは平均点
  • それぞれの応募者に対し、(中略)3段階の再評価を行なっている。(中略)「採用委員会」(中略)「上級幹部審査」(中略)「ラリー・ペイジ
  • 不採用となった30万人のソフトウェア技術者の履歴書をこのシステム※によって処理し、1万人の応募書類を見直し、150名を採用した
  • 1.5%という採用率は、グーグル全体の0.25%という採用率の 6倍に当たる

(※「このシステム」とは「再評価プログラム」を指す。直前の「3段階の再評価」とは別のプロセスのこと。)

 と書かれています。

 

また、「How Google Works」の書籍に記載されているのグラフから

  • 「面接回数」が「1回」の時、「評価平均点の精度」は75%

ということが読み取れます。

 

これを解釈するとGoogleでは

  1. 採用プロセスにおいて、最低で面接4回+再評価3回を行なっている
  2. 1人の面接官が「採用」と判断し、最終的に採用になる確率が75%
  3. 4人の面接官の平均点で判断し、最終的に採用になる確率が86%
  4. 採用した人で、初回の選考フローでは非採用にしていた人が一定いる

となります。

 

これを図示してみると、「2」については「Aの領域/Bの領域 = 75%」という意味と考えられます。

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※「高評価」「低評価」は、入社後のパフーマンスを想定

 

一方、「4」については、「Cの領域も一定の人数がいた」ということを伝えていると考えます。

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2.モデル:「採用精度」をどう測るか?

前述の通り、「Work Rules」によると、
「面接精度=面接者が採用したい応募者が実際に採用される割合」
となります。

一方で、「選考フロー」を通過した人が、
「本当に高いパフォーマンスを出しているのか?」
という点は、少し疑問が残ります。

Googleとしては、パフォーマンスの高低は、採用後の複雑な事象が絡むため、採用判断と紐付けないという意味だとは感じますが。)

 

上記で考えると
「採用精度=採用と判断した応募者が、実際に高いパフォーマンスを出す割合」
と捉えた方がより良いのでは?と考えますが、以下については、単純化し、「採用すべき人」「採用すべきでない人」という区分で考えていきます。

 

3.数値計算:「採用すべき人を不採用にしている確率」を計算してみる

3−1.先に結論

以下、小難しい話が続くので、先に結論。

10人採用する場合、

20人の採用すべき人を不採用にしている(可能性が高い)

となります。

Googleの「再評価システム」による採用率が通常の6倍というインパクトには及びませんが、それなりの数の採用すべき人を不採用にしている現実があるかなと思います。

(ちなみにGoogleはあくまで「割合」が通常採用の6 倍と言っているだけ。)

 

 

3−2.計算するための仮定

確率を単純化するために、1つの仮定をおきます。

*******************************************

1人の採用担当者において
・「採用すべきでない人」を「採用と判断する」確率
・「採用すべき人」を「不採用と判断する」確率
は、等しいと考える

*******************************************

※図で表すと、「a : b = d : c」という仮定

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前述の通り、「How Google Works」の記載を読み解くと、Googleでは、上記の「a : b」が「75:25」(=75%)と考えられます。(以下の計算では、この75%は「採用精度」の変数として扱います。)

 

Googleの採用担当者は一定のトレーニングを受けていると考えられるので、特にトレーニングを受けていない採用担当者は、前述の数値よりも採用精度は劣ると考えるのが自然かと思います。

 

※蛇足ですが、入社後の評価については、GE社の元CEOジャック・ウェルチ氏は「下位10%の人材に時間を使うのは生産的ではない」(出典:logmi)とも言っているので、実際の「高評価」の人材は割合は、多くの組織でより低くなると考えられます。

 

 

3−3.1つの採用の条件を決めて計算する

計算にあたり、変数としては

  • 採用しようとしている人数(=採用人数)
  • 面接者の中に含まれる「採用すべき人」の割合(=高評価率)
  • 面接回数
  • 1面接者あたりの平均採用精度(=採用精度)

の4つがあります。

(「採用人数」はわかりやすくするための数値なので、厳密には変数ではないのですが。)

 

まず最初に

  • 採用人数:10人
  • 高評価率:5%(100人応募者がいたら、5人は採用すべき人が含まれる)
  • 面接回数:4回 (書類面接・1次面接・2次面接・最終面接)
  • 採用精度:70%(Googleの面接担当者よりは劣る) 

 という条件のもと、選考フローにおける「採用すべき人」の推移を計算してみます。

 

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※小数点以下四捨五入しています。

 

 

ちょっと目を疑いたくなるような数字ですが、10人採用する場合、

  • 「508人」(うち5%の25人が採用すべき人)から応募があり、
  • 1次〜最終面接まで、合計「242回」面接をしたにも関わらず、
  • 内定者10人の中で採用すべき人は6人しかいない
    (=内定者高評価率60%)
  • そして、25人いた採用すべき人のうち、6人しか採用できていない。(19人(約20人)は不採用にしている。)

という結果になりました。

 

仮定としては
【「採用すべきでない人」を「採用と判断する」確率】と【「採用すべき人」を「不採用と判断する」確率】が等しい
 という点のみです。

 

そのため、もしこの結果を上回る成果を出せる会社(人)がいるとすると、
「採用すべきでない人は採用と判断してしまうが、採用すべき人は不採用と判断しない!」
という条件を満たす必要があります。

(普通に考えると、「採用すべき人を不採用と判断しない」ためには、採用判断を甘くする必要があるので、「採用すべきでない人を採用と判断する」確率も上がってしまう(=悪くなる)と考えられます)

 

実際に
「採用すべき人を不採用と判断する確率」
がどの程度なのかは、
「採用していないから計測のしようがない」
わけですが、可能性としては、これだけ多くの採用すべき人を、不採用にしている可能性はゼロではないと考えられます。

(前述の通り、googleでは不採用した1万人から150人を採用しています。)

 

3−4.採用の条件を変えて計算してみる

3−4−1.採用精度を変更

先ほどと同じ計算を、「採用精度」のみを変えて計算してみました。

(小数点以下の処理方法により、多少数字がずれています。)

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仮に「内定者高評価率」が100%に近い(=95%以上)会社があるとすると、1回あたりの採用精度は85~90%を保つ必要があります。

 

 

3−4−2.面接回数を変更

次に面接回数を同じように変えてみます。

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この結果をみると、 採用精度が70%だとしても、選考回数を7~8回以上行えば、内定者高評価率は100%に近い数字になることがわかります。

 

奇しくも、「Work Rules」の記載によると、Googleは「7回の選考フロー」(面接4回+再評価3回 ※書類面接は含まず)を行なっているためこの計算上、Googleでは、内定者高確率が100%に近いと言えます。

 ※また選考回数8回(7回の選考+書類選考)では、「応募者数3396人に対して10人採用」=「採用率0.29%」なので、「Work Rules」の記載の「採用率0.25%」に割と近い数字になっています。

Googleの採用率は、応募者数ではなく面接者数の可能性もあります。また高評価率(=応募者の中の採用すべき人の割合)も5%より低く、より採用精度が高い可能性も高そうですので、一概にこの結果が意味があるとは言えませんが。)

 

ただしこの場合、1709回の面接を実施する必要があり、10人採用する工数としてどこまで工数をかけられるのか?という問題が発生してしまうと感じます。

Googleの場合、面接は4回とし、残りの3回の選考は、面接を実施しない方法を取ることで、面接回数を抑えていると考えられます。)

 

また応募者には、3396人 × 5% = 約170人 の採用すべき人がいたはずなので、10人の優秀な人を間違いなく採用するために160人の優秀な人を不採用にしてしている計算になります。

(いくらでも優秀な人から応募をもらえる会社であれば、厳しい選考をすることは問題ないですが、応募の数が限られた環境下では、なかなかこの方法を取ることが難しいと感じます。)

 

 

3−4−3.面接者の中に含まれる「採用すべき人」の割合(=高評価率)を変更

最後に、高評価率を変えてみます。

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高評価率40%(10人いたら4人は求められる能力を持っている)場合であれば、最終的な内定者の高評価率が95%を超えました。

 

採用する人のハードル(=期待値)を下げると、高評価者の割合が増えるという結論になるかと思います。

 

 

4.まとめ

諸々仮定はありますが、

「普通の人が4回採用面接して内定を判断すると、採用した人の2倍の採用すべき人を不採用にしている」

可能性があることが、計算上明らかになりました。

 

 

「どうすれば採用“すべきでない”人を、採用にしないようにできるのか?」
という問いに対しては、

  • 採用精度をあげる
  • 採用面接の回数を増やす(ただし、面接回数は膨大になる)
  • 採用する人のハードルを下げる(ビジネスモデルを磨き込む)

の3つの答えのパターンが考えられました。

 

逆に「どうすれば採用“すべき”人を、不採用にしないようにできるのか?」
という問いに対しては、

  • 採用精度をあげる
  • Googleのように)再評価システムを行う

ということが考えられます。

 

いずれにも効果的な方法は「採用精度をあげる」ことですが、一方で、具体的にどのように「採用精度」を上げていくべきか?については難易度が非常に高いと感じており、今後の課題です。

「採用精度をあげる」取り組みを行っていらっしゃる方がいましたら、ぜひご意見をいただけますと幸いです。

 

 

※執筆者:塚本鋭

 東京大学・大学院において、複雑ネットワークや大規模シミュレーションに関する研究に従事。人工知能学会研究会優秀賞・東京大学工学系研究科長賞 等を受賞。 大学院修了後、株式会社野村総合研究所コンサルタントとして入社し、ICT・メディア領域を担当。2013年1月より株式会社クラウドワークスに8番目の社員として参画し、2014年12月に上場を経験。データ分析・産官学連携を軸としながら、B2B事業立ち上げ、カスタマーサポート部門立ち上げ、子会社副社長等を歴任。2018年より現職。